• 記事:赤石 忍

オンライン学習会「コロナ禍での出版状況と子どもの本」文化通信社専務取締役・星野渉氏

2021年3月6日(土)14時~



2020 年はどのような年であったか

コミュニケーションを遮断するコロナ禍が窮まった 2020 年は、Zoom 等を指すデジタル・トランスフォーメーションが進展し、出版業界、出版市場が大きく変化した年であり、この潮流はもはや、元の状態には戻らないと考えます。例えば、東京を代表する都市に集結して開かれていた会議も Zoom 等を通して開かれ、出版社は在宅勤務を推奨し、対面で行われていた書店営業もオンラインへと変化しました。海外旅行の見合わせのために、旅行ガイドブックの販売額が 9 割減となったように、商品によっては影響を受けたものもありましたが、学校が休校となり、会社も在宅勤務となる等、家庭への巣ごもり現象により、児童書、学習参考書等の分野をはじめ、書店店頭での売り上げは、むしろ堅調だったと言えるでしょう。


4 月に発令された緊急事態宣言により、駅ビル、モール等に店舗を構える大型書店 1600店が休業を余儀なくされたのに対し、地元に根差す中小の書店へ購買者が殺到しました。中には、4月同月前年比で 180%という高い数字を示した小規模店も見られましたが、これも遠くへの移動を避ける、コロナ禍の大きな特徴と言えるでしょう。また、宣言の解除後も移動の自粛が続いた中、大型店の休業も解除され、日販の店頭売上動向においては、2020 年 10 月期に前年比 115%という数字が示されたのを筆頭に、4月を除いた全ての月度で前年比 100%を超えるという年となりました。



1996 年度においては2兆7千億円弱であった、書籍・雑誌の売上高が漸減し始め、それ以降、出版不況と言われてから久しいのですが、2020 年度では、1兆 6168 億円・前年比 4.8%増という復活の数字が示されました。紙の書籍は 1 兆 2237 億円・前年比 1.0%微減であったのに対し、電子書籍の売上が 3931 億円・前年比 28%増が加わった結果であります。このように、雑誌の低迷を「コミック」を中心とした電子書籍が肩代わりしたとも言え、20 年来の出版不況も一段落し、この傾向は今後、さらに強まっていくように思われます。


その中でも児童書分野は前年比 7.0%増と堅調で、中国等を筆頭に、海外での翻訳本も拡大しています。その主な要因としては、①保護者、祖父母等の積極的な購入 ②一般分野からの新規参入社の拡大と、既存の児童出版社に見られない魅力ある企画 ③書店におけるキッズコーナー等の設置 ④「読み聞かせ」等の読書推進と「朝読」による学校教育の中での実施、このような事象、活動により、児童・生徒だけではなく、絵本等は一般女性にも広がり、多様な読者を確保していることが考えられます。この傾向はアメリカ等にも見られ、ハリーポッター等を読んだ層(ミレニアム世代)が引き続き児童書(ファンタジー小説など)などを読み続けたり、ハーパー・コリンズという大手出版社では 300 万人という購買層を組織化したりというように、児童書分野は、世界的にも堅調な動きを見せています。


しかし、それでは我が国の児童書版元は今後も安泰かと言うと、多少の疑問符が付くのも事実です。児童書を刊行する出版社は、概ねその規模は小さく、一般書を刊行の中心とする大手出版社がいち早く、書籍のデジタル化や出版流通の大きな変化に対応している一方で、そのような速いスピードで、児童書出版社の多くが、出版業界が迫られている変化を適確に捉えているか言えば、必ずしもそうは言えません。学校現場でのデジタル化や電子図書館等への対応等、今後の大きな課題として、児童書出版社が率先して取り組んでいかなければならないと考えます。


出版業界の課題と今後の施策

およそ 30 年前に2万3千店舗があった書店数が、今や8千店舗に減少しています。売り場の減少に加え、運送業者の運賃の値上げ等により、本を書店に納品するコスト、そして書店から返品を受ける流通コストがアップし、トーハン、日販などの書籍の取次店は大きなダメージを受けています。それら流通に費やすコストの一部肩代わりを出版社に求めるなど、出版の根幹を成す現行の流通システムの大きな改善が、解決すべき喫堅の課題として業界全体に提示されています。


そのような状態の中での大きな動きとして、コロナ禍により、書店への直接的な営業ができにくくなったことを契機に、出版社の多くはオンライン営業を本格化しています。例えば KADOKAWは 2020 年6月よりオンライン専用窓口を設置し、日経 BP 社はオンライン企画説明会を開催しました。各大手出版社も同様な動きを示したのに対し、小規模出版社は実行委員会形式で集い、Web商談会を実施しました。このような動きを通して、直接的な商談にかかっていた人件費、旅費交通費等の営業コスト削減につながることを知り、新しい営業形態が普及しつつありますが、一方では書店サイドに、十分なオンライン設備が整っていないことや、多くの出版社に対応すると現場担当者に負担かがかかりすぎるなど、この形態を持続するためには、今後、改善すべき課題も残されています。


また、雑誌流通を主な柱としていたと取次流通も、その販売額が3分の1まで落ち込んでいる現状を鑑み、2021 年度中には、その改善を図るとしています。その方策として、①取次の物流拠点の集積 ②仕入れ、配本等の取次間での協業 ③出版社への定価アップ要請 ④返品率低下を目的に供給システムの AI を活用した自動配本への切り替え、などを挙げています。これらの施策の底流には当然、書店の利益率アップと返品率の低減が大きな目的として据えられています。



それでは今後、出版社、取次店、書店が共存共栄していくために、どのような方向を向かていくのか、向かっていくべきなのかをお話しします。


まず書店は、商品の選択を委託販売等、取次店に一任するのではなく、購買層を考慮して、どんな商品が自店舗に合っているのか、その仕入れの力を強化すべきです。また、商品の確保、利益率アップを図るために出版社との直接取引を増大させ、取次店利用との併存を図るべきでしょう。また、中小の書店はチェーン店との競合を考えて、グループ化を推し進め、仕入れ力の強化、経費などの効率化を図る必要があると考えます。


次に取次店は、従来通りの紙の書籍に加え、電子書籍販売、また、少部数に対応するオンデマインド出版への対応など、多様な取次形態に対応しなければなりません。同様に、単品ごとの条件設定など多様な取引形態への対応を実現するべきだと思います。さらには、今後の新しい社会に対応するために、書店のオンライン販売や電子書籍販売などデジタルサービスを積極的にサポートする必要もあるでしょう。


最後に出版社は、返品を少なくしていくために、刊行点数を減少し、確実に販売できる商品を提供していかなければなりません。現在、年間7万タイトルほどを刊行している日本に比して、ドイツではおよそ 8 万タイトルと言われますが、ここには重版も含まれているとみられるので、実質的な新刊点数は日本より相当少ないと思われます。そして価格は 1.5~2 倍と高額であっても、市場で受け入れられているという事実を、考慮していく必要があるでしょう。



最後に、アメリカの書店状況をお伝えして終りとします。現在、アメリカではボーダーズの倒産から始まり、バーンズ&ノーブル等、大手チェーン店が苦戦しているのに比して、独立系書店の存在価値が再度、高まってきています。


同様にイギリスでも、200 店舗を構える書店チェーンのウォーターストーンズが地域にあわせた品ぞろえや接客といった独立系書店化により、店舗を地域に密着した場所に移行して経営危機を乗り越えたと言われます。さらにウォーターストーンズを再建したジェームズ・ドーント氏がバーンズ&ノーブルの CEO に招聘されてから、バーンズ&ノーブルは大型店を閉店して小型店を開店させる方針に転換したといいます。


つまりは、住民が「行きたくなる場所」として、書店を再構築しているということです。日本でもこのコロナ禍を通して、地域の小規模店が見直されました。それを一過性とはせず、新しい書店の姿として、地域住民に理解されていくことを強く希望いたします。



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