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Book

戦争と平和4

少年口伝隊一九四五

井上ひさし/著 ヒラノトシユキ/絵

講談社 2013年

 

『少年口伝隊一九四五』は井上ひさしさんが2008年に日本ペンクラブが主催した世界P.E.Nフォーラムのために書き下ろした朗読劇です。単独の単行本としては刊行されず、『井上ひさし全芝居』(新潮社)に収録されていただけでしたが、「井上ひさしの子どもに伝える日本国憲法」(2006年)を作った講談社の編集スタッフが、氏の死後、なんとかその思いを子どもたちにも伝えようとヒラノトシユキさんの書下ろしのイラストを添えて、一冊の絵本にしました。 原爆によって新聞の発行ができなくなった中国新聞社にやとわれ、「口伝隊」としてニュースを口頭で人々に伝える3人の少年。家族を失いながらも懸命に生きようとする彼らを原爆投下の1か月後、さらに巨大な台風(枕崎台風)が襲います。「戦争」と「災害」と「放射能」という「暴力」に翻弄される少年たちの姿は、私たちにいやでもあの「フクシマ」を思い出させずにはおきません。 2013年のフランクフルトブックフェアで、私はふだん接触しない欧米の一般文芸書の編集者と多くのミーティングをもち、この本がいかに「いま」読まれるべきかを話しました。説明をきく彼らの熱心な表情を私は今でもよく覚えています。そして、昨年、ついに、当時から興味を示していたニューヨークの出版社から英語版刊行のオファーがきたという知らせがありました。国を超え世代を超えて読み継がれてほしい一冊です。 (大竹永介)

井上ひさしの 

子どもにつたえる日本国憲法

井上ひさし/著

いわさきちひろ/絵

講談社 2006年

 

井上ひさしが敗戦の翌年(1946年)新しい日本国憲法の内容を知った時の「誇らしくていい気分を、なんとかしていまの子どもたちにも分けてあげたい」(「はじめに」より)という思いから手がけた憲法の本です。なかでも「これだけは読んでおいてほしい」と思う前文と第9条を小学生にも読めるようなやさしい言葉に書き改めた「憲法のこころ」と、「朝日小学生新聞」の読者に実際に話した内容をまとめた「憲法って、つまりこういうこと」という二つのパートから成り立っています。

例えば第9条はこんなふうになっています。「私たちは、人間らしい生き方を尊ぶという/まことの世界をまごころから願っている/人間らしく生きるための決まりを大切にする/穏やかな世界を/まっすぐに願っている/だから私たちは/どんなもめごとが起こっても-これまでのように、軍隊や武器の力で/かたづけてしまうやり方は選ばない(後略)」また、最近話題になっている「立憲主義」の精神についても、「政府が国民に命令するのではなくて、国民が政府に命令しているのですね」とわかりやすく説明してあります。巻末には日本国憲法全文も収録されていて、子どもだけでなく、親と子、世代を超えたあらゆる人たちにとって格好の憲法入門書となっています。まるでこの本のために書き下ろされたと思えるような、美しいいわさきちひろの絵とあいまって、いつも手元に置いておきたい絵本の一冊です。(大竹永介)

「けんぽう」のおはなし

井上ひさし/原案 武田美穂/絵

講談社 2011年

 

『子どもにつたえる日本国憲法』を作る際に、井上ひさしが実際に子どもたちに向けて話した内容をよりわかりやすく絵本として再構成したもの。井上と子どもたちのやりとりが武田美穂の見事なイラストによって、生き生きと再現されています。個々の具体的な条文にふれているわけではありませんが、現在の日本国憲法の成り立ちや基本的な考え方、大事なポイントが、例えばこんな言葉で、明快に説明されています。

「きみは世界でたったひとり。だれともとりかえがきかない。だからだいじ。一人ひとり、みんなだいじなのです」・・・これこそ井上が、そして今の憲法が最も大切に思っていることといっていいでしょうし、私たちが子どもたちの問題を考えるときも、たえず肝に銘じておきたいことといえます。

「けんぽうとがっこうのきまりはちがうの?」という子どもの素朴な質問に答える形をとりながらいわゆる「立憲主義」の考え方も的確に説明されていて、帯のコピーにあるように「『憲法』がなぜ大切かがよくわかる絵本」です。

奧付をみるとこの本の初版発行は2011年4月9日。井上ひさしの1周忌にあたる日です。亡くなられた後も井上ひさしの「言葉」を長く伝えていきたいと願う武田美穂や編集者の熱い思いが感じられます。 (大竹永介)

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