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Book

子どもの本この1冊

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月と珊瑚

上條さなえ/著

講談社

 

「ビンボー」で「頭の悪い」小6の少女「さんご(珊瑚)」。ひらがなだらけの作文を見た同級生から「あなた、ほんとに六年生?」とばかにされた彼女は漢字を書けるようになろうと日記を書き始めます。

少しずつ、少しずつ、日記をつけながら彼女は漢字を覚えていきます。が、彼女が知るようになったのは漢字だけではありませんでした。沖縄の文化を伝え続けようとする祖母ルリバーの過去、戦争、辺野古、オスプレイ・・・それは自分の住む沖縄が、そして社会が抱える様々な問題でもあったのです。

日記の中にあるのは「日常」です。新聞やテレビのニュースが伝える「難しい問題」ではなく、珊瑚たちが生きている日常生活。嫌なこともあれば、将来への夢もある、「いま」が、そこには息づいているのです。

「テーマは沖縄」と大上段に振りかぶるのではなく、徹底的に子どもの視点から描いた「沖縄と日本の現在」。それだけに読む人の心にしみてくるものがあります。

「さんまマーチ」(国土社)「10歳の放浪記」(講談社)など、数多くの話題作、ベストセラーを持つ上條さなえさんが自ら沖縄に移住して書き上げた最新作です。

(大竹永介:フォーラム実行委員、元講談社編集者)

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ある晴れた夏の朝

小手鞠るい/著

偕成社

 

企画したのはハワイ生まれのジャスミン。彼女の両親は1969年ヴェトナム反戦のために40万人もの若者が結集した伝説のロックコンサート「ウッドストック・フェスティバル」で出会って結婚した反戦カップル。ジャスミンは、2003年3月に始まった米英軍のイラク攻撃に抗議して行動を起こそうと考えて、集会やデモだと一過性に終わってしまうからと、仲間に声をかけて公開討論を企画する。メンバーはすべて戦争には反対だが、アメリカの原爆投下を肯定する4人と否定派の4人が、夏休みの4日間を使っての100人の聴衆を前に討論する。

メンバーは十分に下調べしてきただけあって、それぞれの意見に説得力がある。肯定派リーダーのスノーマンは、アメリカが原爆投下しなかったら、太平洋戦争は終わらず、沖縄戦での犠牲者以上に、本土決戦で何百万人もの日本人とアメリカ人が命を落としただろうという。しかも事前に、新兵器を使うという警告ビラを投下したにもかかわらず、日本の軍国主義者はそれを無視して戦争を続行したと正当性を主張。それに対し、母が日本人で父がアイルランド系アメリカ人のメイは、ソ連が参戦したら日本は降伏することをあらかじめ知っていながら、落す必要のない原爆をアメリカは使った。しかも、広島と長崎では原料の異なる原爆を投下している。これはあきらかに人体実験だったのだはないかと反論する。

1回目の討議が話題を呼んで、2回目以降は聴衆が200人に膨れ上がる。当時の日本人は女性も子どもも老人も鬼のようなアメリカ兵と徹底的に戦うように指導されていたのだから、国民全員が兵士であり、戦争で兵士が殺されるのは当然だと言ったのは、中国系アメリカ人のエミリー・ワン。原爆投下は、南京虐殺を含め1600万人もの中国人を殺害した日本軍と、それを指示した人々に対する処罰であり、正当な行為であったとエミリーはいう。また、ユダヤ系のナオミは、ユダヤ人を絶滅させようとしたヒトラーのナチスドイツと日本は同盟国で、東条英機はアジアのヒトラーだ。それを懲らしめるための原爆投下は当然だという。

(野上 暁:フォーラム実行委員。児童文学評論家)

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貸出禁止の本を救え!

アラン・グラッツ/著

ないとうふみこ/訳

ほるぷ出版

 

エイミー・アンの大好きな本で、何度も学校の図書室から借りた『クローディアの秘密』。ところが、教育委員会の指示で、貸出禁止になってしまった。教育委員会に異議申し立てをしたのは、PTA会長で、エイミー・アンと同じクラスのマービンの母親であるスペンサーさんだった。子どもに家出を勧めたり美術館に隠れたりするのが良くないという理由らしく、他にも子どもに恐怖心を与える、必要以上に体のことを教える(性教育の本)などの理由で、11冊が貸出禁止になっていた。教育委員会の会議で司書のジョーンズさんが意見を述べたものの、禁止措置は支持される。承服できないエイミー・アンは、友だちのレベッカや本が好きなダニーの三人で、エイミー・アンのロッカーに貸出禁止の本をそろえて、秘密の貸し出しコーナーを設置する。しかし、これも校長の知るところに……。

訳者あとがきによれば、これらの本は実際にアメリカの図書館で貸出禁止になったことのある本だということ。そうした状況の怖さを感じると共に、クラス全体を巻き込む子どもたちの”反撃“に拍手を送りたくなる。

(藤田のぼる フォーラム実行委員 評論家)

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