• 記事:赤石 忍

オンライン学習会「コロナ禍の子どもの本~公共図書館から、子どもの本専門店から~」

2021年4月10日(土)14時~



■コロナ禍での読書と子どもの本の可能性(代田知子さん)

三芳町立図書館の活動

私が図書館長をしている埼玉県入間郡三芳町は、首都圏から30キロメートルに位置し、人口38,000 人を有しています。2016 年4月 26 日には「よみ愛・読書のまち」を宣言し、町の歴史・文化を伝える絵本の刊行や、「よみ愛・トートバック」「ブックリスト」の配布等、子どもたちへの読書推進活動に力を注いできました。また、4か月児の乳幼児健診時にはブックスタートを、2歳6か月児に対しては、ブックスタートプラスとして絵本を手渡すほか、このコロナ禍の中での読書キャンペーンとして、角野栄子さんのイラスト付きクリアファイルを進呈する事業を展開いたしました。


[上段左側: 野上 暁さん…司会・児童評論家]

[上段右側: 奥山 恵さん…ハックルベリーブックス店主]

[下段中央: 代田知子さん…三芳町立図書館長]


当館(中央図書館)は 1990 年に開館され、蔵書数が約 261,000 冊、そのうち児童書が約 69,000冊、竹間沢公民館内に設置された分館には、蔵書数が約 15,000 冊、そのうち児童書が約 4,000 冊を数えます。住民1人当たりの貸出数は 10,32 冊で、19 年連続、埼玉県内で1位となっていますが(埼玉県内平均 4,95 冊)、その要因としては、開館時より果敢に取り組んできた児童サービスが挙げられます。町内アンケートでは、「よく利用する町の施設」の上位に位置しますが、子どもたちの行事への参加を契機に、図書館を活用する親や祖父母が多いことも大きな特徴でしょう。



図書館の要となるのは「蔵書」と「人」という考えのもと、良質な児童書が豊富にあり、本の内容を熟知して、上手に手渡せる職員のいる館を目指しています。基本図書やおすすめの本を複本で揃えて、定期的に買い替えるための選書会議を月2回の割合で開催し、児童カウンターでは、子どもたちに本選びのお手伝いをする、児童専任職員を常駐させています。また、館内外で、子どもたちに本を読む楽しさを伝えることを目的として、読書意欲を喚起する主催・共催事業を活発に展開しています。


コロナ禍の三芳町立図書館

新型コロナウイルス拡散を受け、2020 年3月 12 日~31 日にわたり全館休館したのに続き、4 月7 日に発令された緊急事態宣言のもと、再び4月 11 日~5月 18 日の間、全館休館いたしました。開館している間も、ほぼ子どもを対象にした行事は中止し、開催した場合も少人数を対象に、感染防止対策に注意を払いながら行いました。


主な感染対策としては、①換気、動線指定、座席撤去等の三密防止 ②机、手すり、ドアノブ、鉛筆等の施設消毒 ③飛沫防止シート等の設置 ④図書除菌機を活用しながら、返却本を 72 時間待機させ、4日目に書架に戻す等が挙げられます。そのような中、コロナ禍の児童カウンターを経験して改めて感じたことは、子どもたちとカウンター越しに交流することの重要性でした。ウィルス拡散を避けるため、必然的に非接触サービスが各地の図書館において加速していますが、児童サービスの在り方として、果たしてこれで良いのか、強い危機感を持ちました。



三密を避け、十分な感染対策を前提に「ぐりぐらタイム<おはなし会>」「夏のおはなし会」「としょかんくらぶ」「科学工作教室」「クリスマス会」「図書館司書のブックトーク学校訪問」等の行事を行いましたが、直接的な触れ合いを通して、子どもたちと一緒に本を楽しむ事の素晴らしさが確かめられました。また「新型ウィルス感染症対応地方創生交付金」を活用して、非接触を目的に、電子図書館を導入した公共図書館も少なくありませんが、子どもは本に触れながら読みたい本を選びたがるという事実を踏まえ、子どもの本の電子化が果たして有効なのか、また、電子書籍が紙の本と同様に「心」と「読む力・考える力の根っこ」を育ててくれるものなのか、今後、慎重に見極めていきたいと思っています。


コロナ禍という未曽有の出来事の中、いろいろな取り組みを経て感じた事は。改めて本や物語には、子どもたちの心を元気にする力がある、ということでした。図書館とは本を借りるだけの場所ではない。子どもと子どもの本をよく知る職員がいて、例え本が苦手と感じている子どもでも、本を読む楽しさを発見できる場所である、ということが確認できた一年と、改めまして、そのように感じております。



■コロナ禍での読書と子どもの本の現場から(奥山恵さん)

児童書専門店「ハックルベリーブックス」の活動

ハックルベリーブックスは千葉県柏市で、2010 年 10 月 10 日にオープンしました。二階建ての建物で、1階では本を販売し、2階はおはなし会や原画展、作家によるトークやサイン会、また文学茶話会等を開く、イベントスペースやレンタルスペースに当てています。販売する本の割合は、赤ちゃん絵本や紙芝居が 10%、絵本が 20%、詩やミニ本が5%、ノンフィクション、ファンタジー等の児童読み物が 37%、図鑑等、児童の生活を対象として分野が 20%、さらには古物商の資格を得ているので古本が8%、その他、洋書や雑貨等となっています。


年間の売上高は平均 550 万円ほどで、通年で 10~30 万円の赤字を計上しています。建物は私の所有ですので、その赤字の中には建物の減価償却費 70 万円ほどが加わっており、この数字から判断しても、本屋としての販売だけでは苦しい状態が続いていると言ってもいいでしょう。しかし、このコロナ禍の巣ごもり現象の中、地域に密着した中小規模店の売上が良かったと言われている中で、2020 年度は売上高が 600 万円で黒字額を8万円、計上できました。このように、私は個人書店の経営上はどのようになっているのか、その実態を広く発信していきたいと考えています。



ハックルベリーブックスを経営するにあたって意識してきたことは、大型のチェーン店やネット書店にない特長を打ち出していこうというものです。この考え方はこのコロナ禍において、購買者に強く受け入れられたと思います。大型書店やネット書店の品揃えの中心は、「いま現在、売れている本」や「新しい本」です。そこには「読者に、このような本を読ませたい」という書店サイドからの考えはありません。


私が強く意識してきたことは、①たしかな選書 ②忘れられている本を掘り起こす ③雑貨を置く ④古本を置く ⑤本との出会いを仕掛ける、という5点です。通常、大型店で接客する書店員は、本の知識が乏しいアルバイトの方が少なくなく、そして売れ筋のデータによって本の仕入れをするケースが多く見られます。反面、ハックルベリーブックスでは、児童書に詳しい専門書店員が購買者の意向をお聞きし、相談に乗った上で適切な本をご紹介しています。2013 年からは、事前にお金をいただき、定期的に本をお届けする「ブックプレゼント」も始めました。


また、ネット書店と異なるところは、実物に触れて本が選別できるということ。そして、触れた本の側に興味を喚起する別の本を並べるなど、「意外な文脈の棚」を設置しています。やはり、コミュニケーションを取りながら選書のお手伝いをすることは、書店において、もっとも大切な事だと考えております。



もう一つ重要と考えていることに、「地域とつながる」「コミュニティーの拠点になる」が挙げられます。私のお店がある、千葉県柏市の有志の方々と共に実施した「軒先ブックマーケット/本まっち柏」「オリーブサロン」や、柏インフォメーションセンターと柏市立図書館と協同で「みんなが選ぶ絵本 30 選―今だから贈りたい」を市民の方々に配布しました。


また、地元のアーティストや絵本作家と一緒に催した「開店 10 周年記念/ふくろう展」、柏市立図書館で中学生を対象に「オンラインビブリオバトル」を開催する等、地元と共にある児童書専門店を目指しております。


コロナ禍での本の流通の変化

このコロナ禍においても、本の流通はほとんど止まることなく、きちんと供給されました。ハックルベリーブックスは、当初、太洋社という取次店を通して本を仕入れていましたが、2016 年に破産して以来、日本出版販売に取次をお願いしています。その条件は定価の8掛けで、基本的に本を自由に返品できる、委託販売となっています。また、児童書専門取次店である「子どもの文化普及協会」や出版社との直接取引も行っていますが、これは返品ができない買い切りである代わりに、条件が定価の7掛けと、書店にとって有利な条件になっています。


しかし、雑貨の仕入れ値が定価の 5.5~7掛程度で、本に比べると、お店にとって有利な条件で取引されていることを考えれば、流通システムの中での低い利益率が、書店の経営を左右していることに繋がっています。まさに大量配本・大量返品の時代は今、変革期に入っていますが、書店が生き残るためには、買い切り条件で利益率を上げることが求められているように思います。そのためには、書店は、仕入れた本をきちんと売り切るために選書力を高め、地域の方々とコミュニケーションを通して、固く結ばれる必要性があります。地域の多様な子どもたち一人ひとりの成長を願って、今後も、児童書専門店ハックルベリーブックスを経営していきたいと考えております。



【所感―講演をお聞きして】

主に出版社・取次店・書店から成る出版業の長引く構造不況の中、その実態と、それに公共性を強く帯びる図書館等がどのようにかかわっていくべきか、その課題は、このコロナ禍という時代背景において、さらに鮮明化されたように感じられる。



インターネットの普及により、様々な情報が瞬時に見ることができるようになり、出版業においてはまず、情報を主体とする「雑誌」分野が大きな打撃を受けた。それと共に、パソコンやスマホのボタン一つで時間をおかず、そして書店を通さずに書籍が手元に届く時代へと変わってきた。


そのことは単に本だけではなく、様々な商品が宅配され、我々にとって利便性は増したが、底流にある「人が車等で物を運ぶ」という古典的な構図は変わらず、物流費・人件費等の逓増も含め、運送業へ過度の負担を強いることとなる。その負担は出版業にも波及し、今まで取次店が吸収していた流通経費も高騰化して、取次店だけでは耐えられず、出版社にその一部の肩代わりを求めざるを得なくなった。同時に、本の売上減少に伴い、書店サイドも従来の「薄利多売方式」では持ちこたえられず、出版社に対して、卸値の低減を求めているのが現況である。



25年前に比し売上高は1兆円減少し、2万を超えていた書店数も8千店と逓減している。しかし、このことに関して言えば、ピーク時の数値が果たして適切だったのか、とも考えらえる。食品や衣料等、生活用品を扱う業種が店舗数の拡大化を図ったのと同様、できるだけ購買者の身近にと、書店も郊外店を数多く設置するサテライト化を進め、結果として、地代・賃貸・人件費等が負担となり、少なからず、いわゆる「老舗」と呼ばれる地域の歴史ある書店が消えていった。


それは、この業界独特の「委託販売制」(売れない書籍は自由に、いつでも返品できる)に起因するところも多く、取次店のデータに基づいて送り込まれる大量の商材を並べ、売れなければ返品をする行為を繰り返す中、どこの書店も同じ商品が並ぶ「金太郎飴」現象が蔓延すると共に、書店が本来、個性化を図るために持つべき「選書能力」が失われていったように思う。それはまた、本は、日々必要な生活用品とは異なり、人間の成長に必要な「文化財」であるという意識が、作り手にも売り手にも薄らいでいった結果なのかも知れない。



上記の意識は、読み手側にも通ずるところがないでもない。講演でのお話にもあったように、このコロナ禍による「巣ごもり現象」の中、地域の図書館が閉鎖される一方で、地元に根ざしている中小書店の販売高が上がった。出版社にも通常、取引のない書店からの注文数が増加したと言う。要因としては、駅ビルや百貨店等、大規模店舗にある大手チェーン書店が休業要請されたことが挙げられるが、片側には、「読みたい本をタダで借りられる」図書館が閉鎖され、読み手が「近くの書店で購入して、本を読まざるを得なかった」ことも考えられるのではないか。


幼児・児童に対して「読書の大切さ」を伝え、その読書能力を高めるために注力していると共に、図書予算が削られていく方向にある中、あらゆる層に文化財としての本を提供しようとしている、図書館員を始め、図書館ボランティアの方々の努力には、心から敬意を表さざるを得ない。


だが一方で、「読者サービス」を掲げて、貸出回数で書籍選別を測り、ベストセラー等、同じ書籍を大量に揃える「複本化」を図書館サイドに指導している「行政」も少なくないと聞く。つまり、それは本来、図書館において刺激を受けた読書意欲を、地域の文化拠点としての書店での購買を通して発揮するという、「図書館と地域書店との共存」を分断しているとも言えよう。このことを踏まえ我々は、読者サービスとは、本をタダですぐに読めることではなく、多面的に、読書の素晴らしさを伝えるための手段、という原点に、もう一度、立ち戻る必要性はないだろうか。



作家、画家、翻訳家等、本にかかわる方々の多くは、出版社との「印税契約」に基づいて著作権料を受け取る。印税契約とは概ね、「本の定価」×「印刷部数」×「印税率(8%~10%)」の算定式に基づいて計算される。もちろん、売れ筋の著作者は部数、印税率ともに高い基準を示すが、多くの絵本・児童書の場合、定価は1200円前後、刷り部数は3千から5千部、印税率を10%で仮定、算定してみると、定価1200円の絵本×4000部×10%=48万円となる。


作品において著作者が複数の場合は、その割合に応じての金額となるし、もしも印刷が初刷りで終わる場合は、当初の金額しか本人たちの収入とならない。つまりは、3か月から半年ほどを費やす制作に対して、増刷を重ねなければ、その金額が著作者の生活費のベースとなる。これは極端な例かもしれないが、一部の売れっ子の著作者を除いては、それほど的を外してはいない「実態」と言えるだろう。


ここで言いたいことは、文化財を築き続ける著作者をリスペクトし、制作を継続してもらうために、「本は低価格の生活用品ではなく、安ければ安いほど良い、ということではない」「購買することが、著作者の次の制作を保障することである」という意識を、我々読者もできるだけ持つ必要があるのではないか、ということである。それはまた、「本はまさしく文化である」という事柄の裏返しに他ならない。



上記の意識は読者以上に、国の文化を保護する「行政」にこそ持ってもらいたいと考えるが、国は、「書籍には軽減税率を適応しない」という真逆な判断を下した。欧米の主要国では、本を文化財と認識して、非課税もしくは低税率で優遇しているのに対し、わが国の政府は、文化財としての価値を認めないという見解を示した。その理由としては、「青少年への有害図書を、出版界自身が排除しようとしない」ことが挙げられているが、これはまさしく「表現の自由」に対立する思考であり、「読者の社会的モラル」を信用していない、と言うことにも通じる。それを言うなら、現在、政府がその構築を推し進めているデジタル空間には、どれだけ社会的モラルを逸脱している情報が蔓延していることか。経済活動推進という自分たちの目的のために、一方には目をつむり、自身に都合の悪い情報を呈することが多い書籍には、高率な税をかける。これでは先進諸国と比すべき「文化立国」等とは、言えるはずもないのだ。


欧米諸国の絵本・書籍は日本に比べ、高価格である。そのベースには、専門書を含め、多岐の分野にわたる出版業と著作者の活動が継続可能となる、読者の文化支援の意識がある。同様に、書籍に対しての税率を下げて、読者の購入を支援するとともに、図書館等に多額の援助をして、その本来の読書推進活動を支えようとする「行政」が存在する。その二面に支えられて、著作者は自由に、そして継続的に、制作活動を推し進めることができるはずなのだが。



では今後の書店状況はどうか。例えばアメリカ・ニューヨーク等では、20数年来、大手チェーン店に駆逐されていた独立系書店の勢いを増してきている。ボーダーズ等の大手が倒産する中、かろうじて命運を保ってきたバーンズ・アンド・ノーブルも市内中心部の大型店舗を閉め、地域に密着する小型店化を図っている。これは地域に根差した文化的拠点として、地元の中小書店が再認識されてきているということだが、このコロナ禍において、日本でも見られつつある兆候である。


もう一つの大きな動きとしては、書籍宅配から巨大化したアマゾンが、実物を陳列・販売するリアル店舗をニューヨーク市内に増やしていることである。つまりは、書籍購買の読者の意欲をさらに喚起するには、「手にとって見る」ことへの気づきであろう。口コミによるベストセラー本はともあれ、本とは、電子フォントが並べられている無機質なものではなく、造本・装幀等も含めて、「本」であるという、当たり前の認識に立ち戻りつつあるのかもしれない。「今のアメリカの姿は、10年後日本の姿」と言われてきたことが正しいとすれば、その潮流は確実に、我が国にも波及してくるに違いない。



電子書籍等に見られる本の電子化への加速、そして書籍の流通形態の変革等、出版業界は、今まさに大きな変貌を求められている。それはまた、本を単なる商品と位置付けるのではなく、「文化」という側面をもって取り組んでいかなければならない、わが国の「行政」の大きな課題でもある。それこそが「経済立国」から「文化立国」へと段階を経るにあたっての、我々の目の前に立ちはだかり、解決していかなければならない、巨大なテーマでもあるのだろう。


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