加藤純子

2017年10月25日

シンポジウム「共謀罪と表現の自由—わたしたちはどう抗うか?—」

2017・10・6 日本出版クラブ会館
 

 
司会 野上暁氏

講師 黒澤いつき氏、ドリアン助川氏、森枝卓士氏(写真上から)   

あいにくの雨のため、参加者は120名弱にとどまった。

 はじめに司会の野上暁氏より、現在の政治状況について問題提起があり、それから共謀罪について一人一人が発言した。

 一番目の発言者「明日の自由を守る若手弁護士の会」の共同代表で2児の母である黒澤いつき氏は、12ページものレジュメを示しながら「共謀罪」についての問題点を提示した。安倍内閣は「パレルモ条約」に締結するためにこの共謀罪が必要と言っているが、「パレルモ条約」とはそもそもはマフィア対策でマネーロンダリングを防ぐためのもので共謀罪は条約の趣旨とは合わない。またオリンピックのテロ対策のためとも言っているが、日本ではすでにテロ対策の国連条約・議定書などが締結済みで、テロ対策は完備されている。それが証拠に条文の中に「テロ」の文言は一つもなく曖昧なまま法を成立させられた。戦後最強の「治安維持法」にも匹敵するともいえる「共謀罪」を制定させ、市民の中にスパイを潜り込ませ、密告社会に向けて動き出している。では何のためにそんなことをするのか……。市民運動の弾圧や萎縮を狙っているからだ。公安警察の権限が拡大することで、市民運動の人たちは疑心暗鬼になり内部崩壊していく。そのために歯止めのない警察の情報収集が肥大化していく、などと丁寧に共謀罪の問題点をつまびらかにしてくれた。

 またドリアン助川氏は、すでにそうした萎縮が始まっていると、自身の体験を交えながら生々しい話をしてくれた。朝日新聞に共謀罪に対する発言記事が載ったことで、ハンセン病を描いた自身の著書『あん』に関連する講演会などが二つもキャンセルになった話。また若者の自殺が世界最悪になっている話なども語り、これからますます密告社会になっていくのではという危惧に対し、「私たちが萎縮して得るものは一つもない。喜ぶのは権力者だけだ」の力強い言葉で結んだ。

 森枝卓士氏は、危険なのは恣意性だと語り「食文化体験」から始まった自身の仕事の話、文化の変容などについて語った。国に「共謀罪」という便利なものを与えてしまい、国による恣意的な運用が可能な道具になってしまったと。また現在の若い人たちの保守化、現状追従の姿勢についても語った。

 最後に、「ではそれにどう抗っていくか」という司会者の質問に対し、3人とも揃って語ったのは「萎縮をしいられる空気が蔓延している」ということだ。また三権分立の話では、裁判官の天下り先が原発メーカーであるという現在の社会構造の矛盾と、三権分立になり得ていない状況についても語られた。若い人たちの保守化に対しても、日本会議以上に私たちももっと努力し続けていく必要がある。そして人間としての尊厳が握りつぶされる惨さに対し、萎縮しないで行こう。憲法12条をまもり、なにが幸せか貪欲に表現し続けていく。「子どもたちにこんな社会を渡したくない」という思いが、どうやれば届くか、一つ一つの作業の中で粘り強くやり続ける。

そうしたことを力強く語った。

その後、「フォーラム・子どもたちの未来のために」から緊急アピールが読み上げられ、参加者からの賛同を得た。

《緊急アピール文》

衆議院議員選挙にむけて私たちは訴える

私たちは、子どもの本に関わるものの立場から、出版と表現の自由を守り、未来の子どもたちに平和で民主的な、自由闊達に意見をいうことのできる社会を残すため、これまで様々な活動をしてきました。

 しかしながら、特定秘密保護法の成立以来、安保法制、共謀罪と、政権の暴走はとどまるところを知らず、立憲主義、民主主義を無視したその強権的な政治手法には拍車がかかるばかりです。

くわえて、緊迫の度が増す北朝鮮問題では、アメリカの強硬姿勢に追随して危機を煽るばかり。北朝鮮の核開発やミサイルによる挑発が許されるものでないことはいうまでもありませんが、その「対話」の道を閉ざすような対応は、平和憲法を持つ国のリーダーとは思えず、戦争につながる恐怖さえ感じざるを得ません。

 私たちは、こうした政治の流れにストップをかけることが最も重要なことだと考え、今回の衆議院選挙において、立憲主義・民主主義を基盤とした「野党共闘」が実現することを強く望んできました。しかし、小池百合子氏による新党の立ち上げ以来、政局は一気に流動化し、今、私たちの目の前にあるのはあまりにも混沌とした状況です。

 私たちは、特定秘密保護法に反対です。安保法制は憲法違反であり、共謀罪も廃止されるべきものだと考えます。

 現在の小選挙区制の下では、政権与党に対する対抗軸が一つにまとまらない限り、勝負にならないことは明らかです。とはいえ、この3点を曖昧にしたままの「共闘」に何の意味があるでしょうか。安保法制を認め、共謀罪の成立に賛成した人たちが現政権にとって替わったとしても、それは私たちが望んでいる立憲主義・民主主義の回復とはほど遠いものといわざるを得ません。

 安倍首相は解散の決まったその日、街頭演説で「子どもたちの未来は我々でなければ守れない」という意味のことをいいました。私たちは、この発言に強い憤りを覚えます。少数意見を封じ込め、憲法を踏みにじり権力を私物化するものに、どうして大事な「子どもたちの未来」を委ねることができましょうか。

 10日の公示日まで、まだ情勢は流動的と思われます。私たちはこれまでの活動の原点をあらためて確認し、特定秘密保護法、安保法制、共謀罪を白紙に戻すべく、真に立憲主義・民主主義にのっとった勢力が結集することを強く望みます。そして、選挙の結果、どのような政権が誕生しようと、私たちの原則を忘れることなく、これからも活動を続けていくことをここに強く表明するものです。

                                     2017年10月6日

フォーラム・子どもたちの未来のために

絵本学会、絵本作家・画家の会、童話著作者の会、日本児童図書評議会(JBBY)

日本児童図書出版協会、日本児童文学者協会、日本ペンクラブ「子どもの本」委員会